夏の電車

昨日のことである。
ホームに進入して来た電車、なんだか雰囲気が違う。
おやっ?と思いつつ乗り込んですぐに解った。
どの窓もいっぱいに開いているし、何より車内の空気が暑くて重い。
そう、冷房が動いていないのだ。
電車が動き出すと窓から風が吹き込み、モーターの音が入り込んで来る。

この風景、この雰囲気、どこか懐かしいような感じがするのはきっと子供の頃の電車を思い出すからだろう。
あの頃は冷房車なんて無かったから当たり前に天井で扇風機が首を振っていた。
電車の扇風機なんて今では全然見かけない。
夏になるとどの窓も全開で踏み切りの音、モーターの音、継ぎ目を打つ車輪の音、ブレーキの音...様々な音が飛び込んできたものだ。
今のようなほぼ停止寸前まで電気ブレーキというシステムとは逆で、ほとんど空気ブレーキなものだから停止直後はブレーキシューの鉄粉きらきらと舞い上がる。
床下の抵抗器からは熱気が上がり、陽炎が立つ。
夜になると夏虫が飛び込み、飛び出して行く。
人々はみな暑さだるさで押し黙りまるで時間が止まったような夏の電車内の風景。
汗が首筋を伝う感覚と音を立てて首を振る扇風機だけが時を刻んでいるような錯覚を覚える。

..そんな夏の電車を思い出した。