ベーシストの憂鬱

ベースという楽器を担当するようになってライブも何回かこなすようになると恐らく大半のベーシストが疑問に感じるであろう事が有る。
それは、ライブの時に何故ベースアンプにマイクロホンが立っていないのかということ。
ボーカルは勿論マイクを立てて、あるいは手に握ってカッコ良くアクションなんか入れながら唄っている。
ドラムスには何本ものマイクが立っていて、サウンドチェックの時に「じゃぁキックくださ〜い」とか「タム回してみてくださ〜い」なんて言われている。
ギターもしっかりギターアンプの真ん前にマイクロホンが立っている。
しか〜し、ベースアンプの前にはマイクロホンの姿が見えない。
殆どの場合、ベーアンの上に黒い小さな箱が載っていて、PAさんに「このジャックに刺してくださ〜い」って言われ、楽器に繋いだコードをそのまま(あるいは足下のエフェクターに通した最後のコードを)その小箱にジャクッと差し込む。
小箱の中では受け取った信号をPA卓とベースアンプの両方に送る仕組みになっている。
つまり、アンプから出た音、ベース奏者が自らの責任で管理している音とは別モノの音がPAのスピーカーから出ていて、実は客席で聞こえているベース音の大半がそのPAからの音なのであり、首をかしげながらベーアンのツマミをグリグリやって「ヨシッ」っと意気込んでみた自分の聞こえている音とはちがうのであーる。
あのグリグリの努力は報われないということになるのだ。
その点ギターの場合はギターアンプのスピーカーから出ている音がほぼ(カンペキにではない)PAから出る音になる。
ライブでベーアンにマイクを立てない理由はいろいろ有る。
1つはスタンドから低音がマイク本体に回ってしまいやすく、その対策が難しく面倒だということ。他にも余程ベース向けに使いやすいような特性のマイクロホンでも無い限りPA現場の悪条件に対処しつつも綺麗に集音することが出来ないとか、いろいろと事情が有る。
PAさんにしてもリスクは可能な限り低めに抑えたいし、性格的に言ってベースさんなら大人しく引き下がってくれそうだし...
とにかく「ライブやるぞ〜っ!!」っていう時になってPAさんとバンドがモメるのはうまくないんだな。
勿論自分で音響部隊を機材ごとそっくり連れて来ちゃうような大物なら話は別。
一晩にブッキングでアマバンが4つも5つも出るような現場では所詮そんな面倒な事はコスト的にも出来ないだろう。
ポンと一日5万円のギャラを出してくれるバンドと1バンド換算で千円にも足りない金額しかくれないアマバンとで愛想の良さに差が出るのは至極当然の話だと思う。
そんな事は重々承知なんだけど、何だか寂しさがつのるばかりなり...
そこで、せめてもの慰めにベーアンの上の黒い箱を自分の好みのやつを持ち込んで使おうと、まぁそこんとこに目を付けちゃう訳だ。
エレキベースが入るアマチュアバンドのライブって、たいていは狭くて思い切りデッドで大音量だからDIによる音の違いなんざぁ客席で聴いてて普通の客が解るようなもんじゃ無いが、でもそれを言っちゃぁオシマイなのだ。
PAさんに嫌な顔をされないように一生懸命つくり笑顔でお願いした甲斐が無くなっちゃうじゃぁないか。
こういった悲喜こもごも..もアマチュアバンドならではの楽しさと言えなくもないのかもしれない。

写真はBOSSのDI-1と言って、日本製D.I.(Direct Injection Box=例のベーアンの上の黒い箱)の代表格。
安くて丈夫なのでどこででも見かける。
このD.I.には実に多種多様、沢山の製品が有る。
でも元々はエレキギター・ベースの信号をPA卓で受けるためにレコーディング現場のエンジニアが自作していたらしい。